世界最小電圧の乾電池1本で光る青色有機EL


今回のスポットライトリサーチは、東京工業大学の伊澤 誠一郎(いざわ せいいちろう)先生(研究室HP)、富山大学の森本 勝大(もりもと まさひろ)先生(研究室HP)、静岡大学の藤本 圭佑(ふじもと けいすけ)先生(研究室HP)にお願いしました。三人が共同責任著者ということで、若手主導の素晴らしい共同研究の成果だったので、全員からインタビューをいただきました!

伊澤先生には以前の一度スポットライトリサーチを寄稿いただいております(有機半導体の界面を舞台にした高効率光アップコンバージョン)。今回紹介いただけるのは、この技術を応用した世界最小の電圧で駆動する青色有機ELの報告です。発光デバイスを作るためには発光のもととなるエネルギーを電気で注入する必要があります。エネルギーが高い青色を発光させるためには大きめの電圧(通常4 V以上)を印加する必要があり、これは消費電力が上がってしまうという意味で一つの問題でした。その問題を、界面で生じる高効率光アップコンバージョン技術とデバイス工学を融合させることで乗り越えた素晴らしい成果が今回紹介していただけるお仕事です。なんと乾電池一本の電圧である1.5 Vで、2.7 eV相当の青色発光を実現しています。筆者はこの仕事を初めて知ったとき、ここまで来たかと心底驚かされました。Nature Communications誌に原著論文として公開されプレスリリースも公開されており、発表から間もないにもかかわらず複数のメディアですでに紹介されている大注目の成果です!

 “Blue organic light-emitting diode with a turn-on voltage of 1.47 V”,
Seiichiro Izawa*, Masahiro Morimoto*, Keisuke Fujimoto*, Koki Banno, Yutaka Majima, Masaki Takahashi, Shigeki Naka, Masahiro Hiramoto , Nature Communications2023, 14, 5494. DOI: 10.1038/s41467-023-41208-7

それでは、伊澤先生、森本先生、藤本先生のインタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

有機ELはテレビやスマートフォンなど身の回りのディスプレイ機器で幅広く利用される身近な製品です。有機と名前が付く理由は、内部で有機分子が光っているからで、そのおかげで色彩性が豊かな映像を映し出せます。有機ELは既に製品化が成功している一方で、駆動電圧が高いという問題があります。消費電力は電流×電圧ですので、ディスプレイ機器の省エネルギー化に向けては発光にかかる電圧を低減することが喫緊の技術課題です。ディスプレイを構成している有機ELは光の三原色の赤、緑、青の三つで、その中でもエネルギーが大きな青色の発光を得るのが最も難しく、青色有機ELを光らせるのには通常は4 V程度の電圧が必要です
我々は二種類の有機分子の界面でアップコンバージョンという過程を起こす独自の発光原理を研究してきました。アップコンバージョンとは、エネルギーの低い光をエネルギーの高い光に変換する技術で、2021年には目に見えない近赤外の光を黄色の可視光に有機薄膜上で変換する光アップコンバージョンという現象を報告しました。今回はこの界面アップコンバージョンを有機ELデバイス内で起こし(図1a)、さらに最も難しい青色発光を実現するために、二種類の有機分子の組み合わせを新たに探索しました(図1b)。その新しい組み合わせを用いた有機ELは、図1cのように462 nm(エネルギーでいうと2.68 eV)の青色発光が1.26 Vから観測され、1.97 Vでディスプレイ程度の発光輝度に到達しました。つまり図1dのように1.5 Vの乾電池1本をつなげるだけで青色の発光が確認できます。このような超低電圧での青色発光は2014年にノーベル賞を受賞した青色発光ダイオードでも不可能なため、有機・無機双方を含めても世界最小電圧で光る青色発光素子を開発でき、有機ELの省エネルギー化に向け大きな一歩となる研究成果を得ることができました。

図1(a)界面アップコンバージョンを使った有機ELの発光メカニズム. (b)超低電圧での青色発光を可能とする分子の構造. (c)発光輝度-印加電圧特性. (d)乾電池1本で青色有機ELを光らせている写真.

Q2. 本研究テーマについて、思い入れがあるところを教えてください。

(伊澤)新しいメカニズムの発光という基礎研究でありながら、有機ELの省エネルギー化という産業面への貢献に直結しうる研究成果が得られたことです。常々、出口を見据えた基礎研究を行うということを意識してはいますが、なかなかそのような成果は得られません。その点では元々、少し分野が離れたエネルギー変換素子の有機太陽電池の研究を行っていたので、有機ELを専門とする研究者とは違った視点で、界面を使った発光現象という新しい切り口を見つけたことが大きかったと思います。しかし、私は発光素子の研究は2020年ごろに始めたので、有機ELの専門的な知識はあまり持っていませんでした。そこで元々知り合いで年も近かった富山大学の森本先生に有機ELの測定の協力をしてもらいました。気軽にチャットやZoomでコミュニケーションができたので、お互いの専門分野の相乗効果を発揮できたと思います。また新規分子の合成については、有機太陽電池の共同研究を行っていた静岡大学の藤本先生にお願いしました。私よりも年下なので、こんな分子を合成して欲しいというざっくりした要求だけで分子デザインも丸投げという無茶なお願いをしてしまったかもしれませんが、快く共同研究に応じて頂きました。この若手研究者同士でタッグを組んで研究を進めた点にも非常に思い入れがあります。

(森本)本論の有機ELデバイスの発光メカニズムは従前のOLEDとは大きく違っており、構成する有機材料の要求性能も大きく異なっています。2020年に伊澤先生からお声がけいただいた時は、私自身も有機EL研究をスタートして3年目の新人研究者でした。そこで初めは、EL動作メカニズムの実証実験からスタートし、実験を進める中で次第にメカニズムが確定していき、「これは従来有機ELからのゲームチェンジャーになるのではないか!?」という期待が一気に膨らみました。実際、本論で紹介した多くの分子材料は、いずれも従来有機EL材料の常識からは外れた材料たちが勢ぞろいしており、従来の分子設計指針を改めるべきだと再認識しました。私も伊澤先生も有機EL分野では新参者でしたが、その分バイアスや先入観なくディスカッションできたことが本研究成果に繋がったんだと思っています。
また面白い経験として、私の専門は有機ELで伊澤先生の専門は有機太陽電池です。非常に近い分野ですが、単語や物理現象の捉え方が少しずつ違っているため、ディスカッションは噛み合わないことが多いです(汗)。例えば、図2aに示した本研究の鍵であるEL分野の励起錯体(Exciplex)と、太陽電池分野の電荷移動状態(Charge Transfer State)は本質的には同じ現象で、捉え方が違うだけです。しかし、話が嚙み合わない内容を吟味し、発展させたことで本論に繋がったというのは大変貴重な経験になりました

(藤本)一つ一つの分子に化学的な意味を込めて新規分子を探索したことです。アクセプター分子に導入する置換基を検討したのですが、立体障害、対称性、電子の押し引き、共役系の大きさなどにおいて様々な違いをつけながら設計しました(図2b)。青色アップコンバージョン発光へ分子構造が与える影響に関して、化学的に幅広い分子探索をすることができ、この研究の重要なピースを埋めることができたのではないかと感じています(図2c)。
乾電池1本で光る様子をはじめて見たときは本当に衝撃的でしたが、このような素晴らしい研究に自分の役割をもって貢献できたことはとても嬉しく感じています。

図2(a)CT状態の模式図. (b)合成した14種類のアクセプター分子の構造. (c)異なるアクセプター分子を有機ELに用いた際の青色アップコンバージョン発光強度の変化.

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

(伊澤)最も苦労したのは分子の探索です。黄色の有機ELを乾電池1本で発光させる研究は既に2022年に論文発表していたので、原理的には青の発光分子を使って同じ原理で光らせれば低電圧の青色有機ELを開発できます。しかし、色が変わると使う分子が違うので、一から材料探索を行う必要がありました。構成している有機分子は界面を形成する2つと、最後に光るドーパントの合計3種類です。有機分子の構造は∞で、その組み合わせだとその掛け算になります。しかも新しい原理の発光なので、どのパラメータが効率の良い発光に効くかわからず、機械学習などの材料探索手法も使えません。ある程度当たりはつけましたが、最後は売っている分子を片っ端から試すという泥臭いやり方で発光効率が高くなる分子の組み合わせを見つけました。そしてダメ押しとして有機合成の専門家である藤本先生に14種類のアクセプター分子を合成してもらったことが最後の決め手になりました。

(森本)本論のメカニズム実証で重要となったのが、デバイス発光の過渡減衰測定です。これはマイクロ秒以下の速度で発光強度がどのように変化しているかを測定したものですが、実は測定系は全て手作りです。既製品も販売されていますが、私には高額装置を買う予算はありませんでしたので、電子部品や電子機器の組合せで測定系を構築しました。2022年論文のサポート情報を読んでいただくと分かりますが、中古品も含め15万円程度で構築してます。この時は黄色や赤色発光でしたので、Siフォトダイオードの感度も良く測定が簡単でした。しかし本論の青色はSiの感度が悪い領域であることや、電圧が赤色に比べると高くなるため測定が難しくなりました。そこで、各パーツの見直しや、ノイズ低減の工夫などを施した手作装置(改)で測定しています。装置構成の変化はサポート情報から読み取れますが、手作装置(改)の創意工夫箇所などの詳細は載せられませんでしたね。こういった、論文に載らない情報が実は重要、というケースは意外に多いかと思います。私自身は化学学科の卒業なので電子機器は素人同然です。はじめはノイズ低減の基礎から書籍で勉強し、その後も多くの方から教授いただくことで少しずつノイズ低減や感度向上を達成していくことができました。このような試行錯誤を経る事で、新たな知見につなげられたという経験は代えがたいものと思っています。

(藤本)正直なところ、研究の難しい部分は伊澤先生をはじめ共著者の皆様がクリアしたと感じています。自分の担当したアクセプター分子の開発は、自分の得意なこと・出来ることを順当に行ったところなので、ここについても伊澤先生の采配の上手さです。
私としては、有機EL研究に携わるのが初めてで、伊澤先生とのディスカッションの中では、なじみのない実験結果がどんどん上がってきます。現状を理解しないことには次の合理的なアイデアは出てきません。なので、基本的な発光メカニズムや実験結果の意味するところ、現時点で明らかなことや考えうる仮説などを、まずはディスカッションを通してしっかりと理解することを大切にしました

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

(伊澤)この研究を行っている途中で所属が分子科学研究所から東京工業大学に変わりました。今後は大学で研究をすることになるので、学生さんと一緒に研究の面白さを感じながら進めていきたいと考えています。特に有機半導体は分子構造が∞の中で新しい機能を探索するので、試行錯誤をしながらモノづくりをしていく点が、知的好奇心が刺激され達成感を感じて非常にやりがいがあると思うので、研究室の学生さんにはその辺りを感じてもらいたいです。

(森本)私のバックグラウンドは化学なんですが、そもそも化学に興味を持ったのは高校の時です。化学反応式の電子授受を習ったときに「なんか分子って生き物みたいだなぁ」っと本末転倒なことを思ったのがきっかけでした(笑)。何となく化学屋の道を選びましたが、現職の電気電子に着任後も基本的な考え方は化学ですし、数年後には化学教科を教えている予定です。まだしばらくは化学さんと仕事を続けていけたらと思っています。

(藤本)博士課程のときに同じ質問に対して、「純粋な心で化学を楽しみ続けたい、目の前で起こっている事象を深くまで探求し続ける姿勢を持ち続けたい」と答えたことがありますが、その根本的なところは今でも変わっていないです。
さらに言えば、本共同研究で自分の力を有機EL研究に役立てることができたように、これまでの自分の経験をもっと何かに

役立てることができれば良いですね。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

(伊澤)応用研究か基礎研究かの二者択一的に見られがちですが、アカデミックにいるからには応用先が明確であったとしても出口を見据えた基礎研究を行いたいと考えています。また基礎研究であっても目的意識は大切だと思います。研究はよく山登りに例えられますが、頂上を目指すからこそ途中で思いがけない景色に出会いそれが大きな発見につながることもあります。目的を達成するためにはどうすべきかということを常に考え続けチャレンジすることは、当初の目標が達成できなかったとしても価値があることだと思います。私は今回の有機EL研究以外にも次世代のエネルギー変換素子である有機太陽電池や、新しい光機能である光アップコンバージョンなどの研究もやっているので、もし興味がある学生さんがいたら気軽にご連絡をいただけたらと思います。

(森本)私の現職は電気電子コースで有機ELを専門にしていますが、学部・修士は液晶の界面物性評価、博士は有機強誘電体の薄膜物性、就職は化学メーカーでフィルム製造と様々なことを経験しました。企業在籍時や現職で実感しましたが、有機材料をあつかう出口産業は必ず分子材料に依存します。デバイス作製や応用開発といった川下産業分野だけでは成り立たず、有機分子合成や薄膜工学といった川上産業分野との連携が必須です。研究を例にしても、デバイス設計する際には量子化学、光化学、物理化学などの基礎学問が基盤にあります。化学分野の知識・経験を持つ皆さんは、どのような分野でも活躍できるかと思います。逆に、化学専攻だからと将来の道を限定することなく、広い視野で皆さんの将来を見据えて研究活動に邁進していただければ幸いです。

(藤本)このインタビューに答えていて改めて感じたことですが、この研究に貢献できたのは学生時代に身につけた力があったからで、その力は大きな財産であるということです。そして、自分を成長させてくれた恩師や研究室の仲間には本当に感謝でいっぱいです。大学院生のみなさまには、今の自分の研究に素直に一生懸命に取り組めば、必ず自分の強みを身につけられるということを伝えたいです。次の目標は、静岡大学発の研究成果として皆様が面白い感じる研究を発信することです。

研究者の略歴

名前:伊澤 誠一郎

所属:東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

専門:有機半導体材料、界面物性、有機光デバイス

略歴:

2006年 愛知県立時習館高校 卒
2010年 東京大学工学部応用化学科 卒
2012年 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 修士課程修了
2015年 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 博士課程修了(工学博士)
2015年 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2015年 理化学研究所 訪問研究員
2015年 カリフォルニア大学サンタバーバラ校 訪問研究員
2016年 自然科学研究機構 分子科学研究所 助教
2021年-現在 JSTさきがけ研究者(兼任)
2023年-現在 東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授

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名前:森本 勝大

所属:富山大学 学術研究部工学系 電気電子工学コース

専門:有機薄膜作製 薄膜構造制御 有機ELデバイス 有機強誘電体

研究室ホームページ:http://enghp.eng.u-toyama.ac.jp/labs/ee10/

略歴:

2003年 私立六甲高校 卒
2007年 静岡大学工学部物質工学科 卒
2009年 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修士課程修了
2009-2012年 東洋紡績株式会社(現:東洋紡)化成品事業部
2014 年 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2015年 神戸大学大学院工学研究科応用化学専攻 博士課程修了(博士(工学))
2016年 神戸大学神戸大学先端融合研究環 特命助教
2017年 富山大学学術研究部工学系 助教
2021年-現在 富山大学学術研究部工学系 准教授
2023年-現在 ドイツ国カッセル大学 Guest Professor


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名前:藤本 圭佑

所属:静岡大学 工学部 化学バイオ工学科(高橋研究室)

専門:構造有機化学、有機合成化学、光化学

研究室ホームページ:https://wwp.shizuoka.ac.jp/orgphotochem/

略歴:

2009年 徳島県立脇町高等学校 卒
2013年 京都大学理学部 卒
2015年 京都大学大学院 理学研究科 修士課程修了
2015年-2018年 日本学術振興会 特別研究員 DC1
2018年 京都大学大学院 理学研究科 博士課程修了(指導教員: 大須賀篤弘 教授)
2018年-現在 静岡大学 工学部 助教(高橋研究室)

掲載記事について本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する 化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しております。

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