エマルジョンラジカル重合によるトポロジカル共重合体の実用的合成

今回のスポットライトリサーチは、京都大学化学研究所・材料機能化学研究系高分子制御合成領域 山子研究室の蒋 語涵 (Jiang Yuhan)博士にお願いしました。

山子研究室は、ラジカル、リビングラジカル重合、ヘテロ元素化合物、有機金属化合物、含曲面芳香族化合物、機能材料をキーワードとして、有機合成と高分子合成において「輝く分子」の創出を目指しています。特に、これまで有機合成化学の対象になりにくいと共に、構造を制御して合成することが困難であった分子量の大きな分子を精密に合成することを大きなターゲットとしています。合成高分子を用いたボトムアップ方式による高機能性ナノマテリアルの創製を視野に入れた研究をも行っています。

本プレスリリースの研究内容はポリマーの新規重合方法についてで、本研究グループでは、独自に開発した多分岐ポリマーの合成法をエマルジョン重合に応用し、様々な形態を持つ多分岐ポリマーを実用的に合成する技術を開発しました。この研究成果は、「Angewandte Chemie International Edition」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Practical Synthesis of Dendritic Hyperbranched Polyacrylates and Their Topological Block Polymers by Organotellurium-Mediated Emulsion Polymerization in Water

Dr. Yuhan Jiang, Masato Kibune, Prof. Dr. Masatoshi Tosaka, Prof. Dr. Shigeru Yamago

Angew. Chem. Int. Ed. 2023, e202306916

DOI:doi.org/10.1002/anie.202306916

研究室を主宰されている山子 茂教授より、蒋博士についてコメントを頂戴いたしました!

蒋君は中国からの留学生で、研究生を経て修士課程から私の研究室で有機テルル化合物を用いた重合TERPのエマルジョン重合について研究をしています。蒋君の特徴は、とにかくパワフルであることで、研究室で一番多くの実験量を誇ります。今回の研究では、多くのパラメータがあるエマルジョン重合において条件を最適化するのに、この蒋君のパワフルさが遺憾なく発揮されています。蒋君は、これからは日本の化学会社で研究を続ける道を選びました。より良い製品を作り出すことのみならず、日中の懸け橋となる人材にぜひ育ってほしいと思っています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

プラスチックなどの人工高分子材料は、現在は主に線状構造を持つポリマーから作られています。それに対し、多くの枝分れを持つ多分岐ポリマーは、特徴的な物性や機能を持つことから、その特徴を活かした機能性高分子創製が期待されています。しかし実際には、多分岐ポリマーの構造制御、すなわち、分子量と分岐構造の制御と、実用性を兼ね備えた合成法が無いことから、その利用は限られていました。一方、山子グループはこれまで有機テルル化合物を用いる制御ラジカル重合法TERPに、新たに設計した分岐を誘起するモノマーを加えることで、均一系の重合によるデンドリマー構造を持つ多分岐ポリマーの構造制御合成法を開発していました。しかし、この条件では均一系重合に共通する、重合の進行に伴う溶液の粘度増加に由来する問題があり、例えば、機能の宝庫であるブロック共重合体の合成では、高分子量体の合成は困難でした。

今回我々はこの問題の解決のために、水を溶媒とするエマルジョン重合により、多分岐ポリマーを粒子として水に分散した形で得ることを検討しました。その結果、従来均一系重合で用いていた分岐誘起モノマーは水と相分離することからエマルジョン重合には不適であった一方、新たに合成した分岐誘起モノマー1と水溶性の有機テルル重合制御剤2を用いることで、アクリレートモノマーとのエマルジョン共重合が進行し、構造の制御された多分岐ポリマーが得られました(図1a)。12の配合比を変えることで、デンドリマーの分岐階層構造である「世代」を制御でいることはすでに均一系重合でも示していましたが、今回エマルジョン重合を用いることで、平均分岐数が255である、第8世代の多分岐ポリマーの合成にも初めて成功しました(図1b)。

さらに、エマルジョン重合がブロック共重合体の合成に適している特徴を利用し、分岐誘起モノマーを加えるタイミングを制御することで、線状構造と多分岐構造を持つ共重合体(Linear-HB)、多分岐構造の先に線状構造を持つ共重合体(HB-Linear)、さらに、異なる分岐密度を持つ共重合体(HB-HB)の合成が可能となりました(図1c)。さらに、共重合体におけるトポロジー効果を、溶液状態における固有粘度により実証しました。この様な、異なるトポロジーからなる「トポロジカル共重合体」はこれまでにも合成されていますが、分子量や分岐構造を自由に制御して合成できる方法はこれまでに無く、今後の高分子材料創製に役立つものと考えています。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

私はこれまで山子研究室で開発されたTERPを、水中のエマルジョン重合に利用する研究を行ってきています。エマルジョン重合は工業的にも使われている手法なので、技術的バリアは低いように思われがちですが、実際はポリマー粒子の成長の仕方が従来のラジカル重合と、制御ラジカル重合とで異なるので、簡単ではありません。すなわち、従来の条件では、重合初期から水に不溶の高い分子量を持つポリマーが生成し、それが粒子核を形成し、そこに新たな高分子鎖が加わることで成長していきます。それに対し、制御重合系では、重合初期では分子量が低いため、複数のオリゴマーが会合して粒子核が形成され、ここにモノマー液滴からモノマーが移動して重合が起こることで、粒子が成長していくと考えられています。この核形成がうまくいかないと、粒子系の不均一性が増し、そのために成長反応も不均一になるため制御が低下すると考えています。したがって、核形成とモノマーの水を介した移動、さらに、粒子中での成長反応をうまく制御することが鍵であり、線状高分子の合成では、テルル置換基に親水性を付与することで、成長反応に関与するテルル基を粒子表面に偏在させる工夫をしました。一方、多分岐ポリマー合成では、分岐誘起モノマーとアクリレートモノマーの移動が同じように起きるのかが心配でしたが、それは分岐誘起モノマーを選ぶことで問題なく進行したため、構造の制御がうまく行われました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

上記の点と重複しますが、最初に均一系重合で用いてきた分岐誘起モノマーを使って重合をしたとき、これが水とうまく懸濁せずに相分離したような状況になってうまくいかなかったので、ちょっと焦りました。ちょうどその時に、この論文の共著者の一人である木舩雅人君(当時M1)が、別の目的で分岐モノマー1を合成していたので、それを分けてもらって重合をしたところ、うまく重合が進行しました。なお、テルル上の置換基についても、親水性を付与する必要があるのではと思っていましたが、特にその必要はありませんでした。おそらく、多分岐ポリマーでは末端置換基が多数あるので、重合の制御に必要な成長ラジカルと有機テルル休止種との交換反応がポリマー粒子内で効率的に起きているためであると考えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私は間もなく化学会社に就職予定です。そこでは、今までの大学での基礎研究を重視した研究から、より社会のニーズに即した問題を解決する研究を行っていく予定です。現在は、資源不足や資源の再利用も見据えながら、よりよい先端材料を開発していく必要があります。そのような課題に対し、自分の知識や経験を生かして研究を進め、社会に貢献し産業界の変革の力となる研究者になりたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

今回の合成法で得られる多分岐高分子は、構造の制御と合成の実用性を兼ね備えた高分子であり、これまでにない新しいポリマー群です。特に、エマルジョン重合では、トポロジー構造とともに分子量についても低分子から高分子まで、広い分子量の範囲で望みのトポロジカルポリマーを合成できることから、様々な高分子材料への利用による機能向上や新しい機能の付与が期待されます。実際、研究室では固有粘度以外のポリマーの物性に対するトポロジーの効果についてもすでに研究を始めており、興味深い結果が出てきています。

最後に,本研究を進めるにあたりご指導、ご助言を頂いた京都大学化学研究所の山子茂教授と登阪雅聡准教授に感謝致します。

研究者の略歴

名前:蒋 語涵 (Jiang Yuhan)

所属:京都大学化学研究所・材料機能化学研究系高分子制御合成領域 山子研究室 ポストドクター

研究テーマ:高分子制御合成

略歴:
2015年6月 (中国)四川大学高分子材料と工程学科 卒業
2017年4月-2018年3月 京都大学化学研究所 研究生 (指導教員:山子茂教授)
2020年3月 京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻 修士課程修了(指導教員:山子茂教授)
2023年3月 京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻 博士後期課程修了(指導教員:山子茂教授)
2023年5月 博士(工学)(京都大学)取得
2023年4月-現在   京都大学化学研究所  ポストドクター

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