マイクロ空間内に均一な原子層を形成させる新技術

今回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 柳田研究室の亀井龍真(かめいりょうま)さんにお願いしました。

柳田研では、無機・有機材料を“界面”において空間設計するナノ材料化学を展開し、それらの新しい材料物性(分子認識機能など)を集積化デバイス・情報科学と融合させることで、我々の身の回りの多成分分子群が時空間的に相互作用する複雑な系を化学する新しい研究分野・産業の開拓に挑戦しています。

本プレスリリースの研究内容は、分子反応を利用することで、金属酸化物や金属の原子層を1層ずつ堆積する手法、原子層堆積に関する内容です。本研究グループでは、きわめて狭いマイクロ空間に対して均一に原子層を堆積する新しい方法を開発しました。この研究成果は、「ACS Applied Materials and Interfaces」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Rational Strategy for Space-Confined Atomic Layer Deposition

Ryoma Kamei, Takuro Hosomi, Masaki Kanai, Eisuke Kanao, Jiangyang Liu, Tsunaki Takahashi, Wenjun Li, Wataru Tanaka, Kazuki Nagashima, Katsuya Nakano, Koji Otsuka, Takuya Kubo, and Takeshi Yanagida*

ACS Appl. Mater. Interfaces 2023, 15, 19, 23931–23937

DOI:doi/10.1021/acsami.3c01443

指導教員である柳田剛 教授細見拓郎 講師より亀井さんについてコメントを頂戴いたしました!

細見拓郎先生コメント

本研究で扱うALD(原子層堆積)は、堆積したい材料の前駆体となる錯体の固体表面反応を利用して原子層を一つずつ積み上げていくという面白い堆積法で、数ある固体材料堆積技術の中でも「化学反応」の要素が強い技術です。したがって本技術の開発には、真空技術や流体力学の知識はもちろん、錯体化学反応への深い理解も欠かせません。亀井君は、もともと真空装置のプロフェッショナルとして活躍していましたが、ナノ化学分野を研究する柳田研に参加することで新たな専門領域を手に入れ、今回の成果に繋げてくれました。装置流路系と要素化学反応とをトータルで設計した、革新的かつ実用的な技術に至ったと確信しています。博士課程研究として見ると、装置開発研究と言う特性上データが全く得られない期間も長く、体力的・精神的にタフなテーマだったと思います。その中でも、壁にぶつかる度に(時に専門家の意見も積極的に聞きながら)試行錯誤を繰り返す亀井君の姿が印象的でした。また、学生の中では頼りがいのある先輩としての一面もあり、研究室を引っ張る存在でもあります。卒業後はフィールドを企業に移すことになりますが、技術・人格の両面でリーダーシップを発揮する亀井君の活躍を聞けることを期待しています。

柳田剛先生コメント

亀井君はバリバリの関西弁が駆使できる貴重な社会人博士学生として、柳田研究室に在籍して頂いています。(研究室のたこ焼きパーティーの主役です。)社会人博士としての在籍のきっかけは、既存のナノ構造・薄膜形成装置では考えられない様な新しい方法論と装置を一緒に遊びながら作りましょうということでした。今回紹介していただいている彼の研究は、従来の原子層堆積法(ALD法)の枠組みをはるかに超えた内径100ミクロンで長さ1メートルというとてつもなく制限されたマイクロ空間内壁に、ALD法を適用することに初めて成功したというものです。研究開始当初は、ナノスケールの材料を研究している研究室でせいぜいミリメール・センチメートル程度の基板ぐらいしか取り扱っていなかったので、1メートルというあまりにも長いサンプルのハンドリングに関するノウハウは全く持ち合わせていなかったのですが、彼はそのハンドリングから装置設計まで全てを持ち前の“関西ノリ“で乗り越えて、最終的には原子層レベルの制御性で1メートルのマイクロ空間内壁に極めて均一な金属酸化物の製膜に成功しました。卒業後も会社で、持ち前の明るいノリで画期的なナノ構造形成装置を遊びながら開発し、製品化してくれることを期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今まで達成できなかったきわめて狭いマイクロ空間に対して均一に原子層を堆積することに成功しました。

微細な表面構造に対して均一に金属酸化物を堆積する方法としては、原子層堆積(ALD)法という2種類以上の原料気体を交互に導入・排気を繰り返して堆積させる方法が広く用いられてきました。しかし小径長尺な管構造に対して通常のALDを行うと、均一な堆積には未達成な領域があることが分かりました。今回の目標であるキャピラリーチューブ内への堆積も未達成領域に属していることが分かりました。

本研究では、ALD装置を1から開発することによって、長さ1000mm、内径100μmというきわめて細長いキャピラリーチューブの内壁に金属酸化物(酸化チタン)層を均一に堆積することを目指しました。ALDは本来、試料室と呼ばれるサンプルに金属酸化物を堆積させる部屋があるのですが、従来の方法を使用するとキャピラリーチューブ内部にほとんど差圧を発生させることができず、ガスの流れができません。そこで試料室を無くし直接キャピラリーチューブと配管を直接接続し、高圧ガスを一気にキャピラリーチューブ内に流すことによりキャピラリーチューブ内への均一堆積に成功しました。(図)

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

このテーマは、私が1から装置を作製するところから始まりました。まずは装置構成を考え、設計し、装置を組み立てて、ようやく実験ができると思い実際に堆積を行っても最初は全くうまくいきませんでした。そこで柳田先生をはじめ多くの人の助言を頂きながら何度も試行錯誤を繰り返してようやく完成し成功させた研究です。元々装置の開発をしていきたいと考えていましたが、この研究テーマはその面白さと難しさを改めて認識をさせてくれました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

キャピラリーチューブ内全体へのガス供給とそのガスの排出方法です。本来のALDとは異なり高圧ガスを供給しそのガスをどのようにしてキャピラリーチューブ内全体へ供給、排出するか実験を何度も繰り返し、修正を行いました。高圧ガスを供給でしても、排出する際にガスが残っていればコンタミに繋がり膜の均一性が保たれないし、排出過程を多くし過ぎると1サイクルの堆積時間が余りにも長くなりすぎて現実的な実験レシピにはなりません。そこでより効率的な作業を行うため本来のALDにはないガス供給、排気のバイパスラインを作製し、バルブ動作の修正などを何度も行い均一に膜を堆積させることに成功しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

小さいころからものづくりが大好きで、装置の開発などには興味がありました。しかし今回の研究で改めて装置開発の難しさを知ることができました。一方で装置を化学的な観点から考察し、改善していくことによって、成功させる喜びを知ることができました。それはまるで作成してきたパズルの最後の1ピースがきれいにはまったように嬉しかったことを覚えています。本研究のような新たな装置開発のためにも様々な分野に興味を持ちいろいろな研究者と協力をして新たな装置の開発をしたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究を成功させるには様々な困難を乗り越える必要があると思います。時間をかけて出した実験が必ずしも良い結果になるとは限りません。しかしそのような結果をしっかりと受け止め、考察することで成功に繋がると思います。これは私の恩師の受け売りでもあるのですが、手を動かすことは大切だと思いますが、多くのことを考えていかに可能性が高い方向に導けるかが大切だと思います。今回の研究でこのことを実感しました。時には息抜きをして今見ている観点から違う考察を行うこともとても大切だと思います。

最後になりましたが、本研究を遂行するにあたって熱心にご指導いただきました、柳田剛教授、細見拓郎講師、金井真樹博士および試料の測定や有意義な議論をしていただきました京都大学の久保拓也准教授金尾英佑助教を含む多くの助けをいただきました共同研究者の皆様方にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:亀井龍真(かめいりょうま)

所属:東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 柳田研究室

研究テーマ:ALDを用いた閉鎖空間内における金属酸化物結晶成長法に関する研究

略歴:
2012年10月 誠南工業株式会社     入社
2019年4月1日 九州大学大学院   総合理工学府   物質理工学専攻 博士後期課程   入学

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