2022年7月11日

ラジカル重合とは?種類、特徴、反応機構や代表的な方法と例をわかりやすく解説

 ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、高活性なラジカルを成長種として開始反応、成長反応、連鎖移動反応、停止反応を素反応とする連鎖反応であり、主にアゾ化合物や過酸化物が開始剤として使用されています。

1. ラジカル重合とは

1-1. ラジカル重合の反応機構(素反応)

 ラジカル開始剤から⾼活性のラジカルが発⽣し、モノマーと反応して成長ラジカルを発生させる開始反応を経て、このラジカル種が連鎖的に次々とモノマーに付加する成⻑反応が進⾏し、⾼分⼦が効率的に得られます。成長ポリマーラジカルが、その成⻑末端同⼠の再結合や不均化によって活性を失う反応が停⽌反応、重合系の他の化学種と反応して成⻑ラジカルの移動・再開が起こる反応が連鎖移動反応であり、これらのようにポリマー鎖成⻑を妨げる反応も同時に起こります。


1-1-1. 開始反応について

 ラジカルの発生は、開始剤である有機・無機過酸化物やアゾ化合物などを光や熱によって分解し、ラジカルを発生させる方法が一般的です(ラジカル開始剤の分解反応)。

 開始剤の分解により生じたフリーラジカルがモノマーに付加することによってモノマーの活性種を生成することを開始反応と呼びます。

アゾ開始剤の分解反応
アゾ開始剤の分解反応(ラジカル発生)
アゾ開始剤によるラジカル重合の開始反応
アゾ開始剤によるラジカル重合の開始反応

当社は、有機溶剤に可溶なタイプ、水に可溶なタイプなど様々な構造を有するアゾ重合開始剤を取り揃えております。お客様の用途に応じてご利用ください。

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1-1-2. 成長反応について

 ラジカル化されたモノマーと他のモノマー分子との急速な反応が繰り返し起こり、ポリマー鎖が伸長していく段階を成長反応と呼び、成長の段階で中間体となるラジカルを成長(生長)ラジカルと呼びます。

ポリマーの成長反応
ポリマーの成長反応

1-1-3. 停止反応について

 成長ラジカルが不活性化する段階です。最も一般的な停止反応は、2つのラジカル同士が再結合して1つの分子となる再結合停止で、もうひとつの停止反応は、2つのラジカル同士の間で水素ラジカルを受け渡す不均化反応が起こり、末端に二重結合を持つ鎖と飽和状態の鎖を与える、不均化停止です。

ポリマー同士の再結合による停止反応
ポリマー同士の再結合による停止反応(再結合停止)
水素移動による不均化停止反応
水素移動による不均化停止反応

 この再結合停止と不均化停止の二つの停止反応が、ラジカル重合における分子量分布に影響を及ぼしており、これらを制御し、分子量分布を制御する重合手法がリビングラジカル重合です。

 また、重合禁止剤は、ラジカルと容易に反応し、重合することを防ぎます。

当社の高性能重合禁止剤Q-1300、Q-1301は、反応性の高いモノマーの精製時や保存時に強力な重合禁止効果を発揮します

1-1-4. 連鎖移動反応について

 連鎖移動反応については、リビングラジカル重合の項で詳しく説明します。

1-2. ラジカル重合の特徴

 ラジカル重合の特徴を以下に列記します。

 下記特徴のため、ラジカル重合は工業的に広く使われています。

  • モノマー種が多岐にわたる(様々な物性の材料を合成できる)。
  • 特殊設備を比較的必要としない。
    • 操作、条件設定が比較的容易(比較的温和な条件で反応が進行する)。
    • 水分のケアが不要。

 また、実施時には下記に注意が必要です。

  • 酸素が反応を阻害する。
  • 熱暴走することがある(反応熱が大きい)。

1-2-1. ラジカル重合とイオン重合(カチオン重合、アニオン重合)との違い(比較)

 ラジカル重合では、活性種は、基本的に水やイオン性物質とは反応せず、二重結合へ速やかに反応を起こすため、厳密に極性物質などの不純物を除去する必要がなく、水中でも重合を行うことが可能です。イオン重合では、一般的に生長種が水や極性基などに対して不安定であり、生長種の電子的な要因が重合反応性に大きく影響するため、重合可能なビニルモノマーの種類に限度がある点で大きく異なります。

 反応式上では、ラジカル重合とイオン重合(カチオン重合、アニオン重合)との違いは、開始剤と活性種のみであるように見えます。

 しかし、スチレンとメタクリル酸メチルの共重合体を合成する場合、BPO(過酸化ベンゾイル)を用いたラジカル重合では、モノマー組成とほぼ等しい組成の共重合体が得られるのに対し、n-ブチルリチウムを使用したアニオン重合では、いずれの組成でもメタクリル酸メチルを多く含む共重合体が生成します。四塩化スズを開始剤に用いたカチオン重合では、スチレンの重合が優先的に起こります。

 このように、生長鎖の種類によりモノマーの反応性が異なります。

 さらに、活性種により反応性も大きく異なっており、傾向をつかむための大まかな概算値として、

 反応時間:ラジカル重合(約1時間)>アニオン重合(約1分)>カチオン重合(約1秒)

 とも言われています。

1-3. ラジカル重合の種類(利用可能なアゾ開始剤)

1-3-1. 塊状重合(バルク重合)

 塊状重合は、溶媒を用いずモノマーだけ、もしくは少量の重合開始剤を加えて行う重合です。

1-3-2. 溶液重合

 溶液重合は、溶媒中で重合反応を行う方法です。溶液重合で使う溶媒はモノマーとも重合開始剤とも反応しにくいものが使われます。

モノマーおよび溶媒に溶ける開始剤を選択

1-3-3. 乳化重合

 乳化重合は、水を媒体として、界面活性剤(乳化剤)存在下、モノマーのエマルションを作り、そこに水溶性の重合開始剤を加えて行う重合法です。

 このような乳化重合によって、高分子粒子が水等の媒体中に分散したエマルション(エマルジョン、ラテックスともいう。)が得られます。 乳化重合は、次項で説明する懸濁重合と似ていますが、通常、水溶性の重合開始剤を用い、ラジカル発生が水中で行われるため、重合挙動が異なります。

水に溶けてモノマーに溶けない開始剤を選択

1-3-4. 懸濁重合

 懸濁重合は、モノマーと溶媒の水とを機械的に撹拌し、懸濁させて行う重合方法です。ポリマーは小球状(パール状)で得られます。

 ビーズ重合、粒状重合、パール重合とも呼ばれます。

モノマーに溶けて水に溶けない開始剤を選択

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2. ラジカル重合の代表的な例

 以下に、ラジカル重合の代表的な例の反応式を掲載します。

2-1. スチレンを使ったラジカル重合 (反応機構)

スチレンを使ったラジカル重合
スチレンを使ったラジカル重合

2-2. アクリル酸エステル使ったラジカル重合 (反応機構)

アクリル酸エステルを使ったラジカル重合
アクリル酸エステル使ったラジカル重合 

2-3. スチレンとアクリル酸エステルとの共重合 (反応機構)

スチレンとアクリル酸エステルとの共重合
スチレンとアクリル酸エステルとの共重合

3. リビング重合とは

 リビング重合は構造を精密に制御した高分子を合成するのに有効な重合方法で、「開始と成長のみからなり、不可逆の停止と不可逆の移動が起こらない連鎖成長重合」と定義されています。

 リビング重合は、1956年にMichael Szwarc によってスチレンのアニオン重合で最初に報告され、ここでリビング重合の概念も提唱されました。

 その後、1980年代から1990年代にかけて、様々な機構の連鎖成長重合においてリビング重合が次々と開発され、それまでのリビングアニオン重合では困難であった構造の高分子や、極性基をもつモノマーを用いた場合でもリビング重合が可能になりました。1990年代になると、従来は不可能と考えられていたラジカル重合でも、安定ラジカル、遷移金属錯体、あるいは可逆的連鎖移動に基づくリビング重合が開発されました。現在では、アニオン、カチオン、ラジカル、配位、開環(イオン、メタセシス)など、様々な機構のリビング重合が開発されています。

 このような合成法を高分子精密合成、合成された高分子を精密高分子と呼ぶ場合があります。

3-1. リビングラジカル重合とは

 リビングラジカル重合は、適用範囲の広さから高分子工業だけでなく電子材料や医用材料など、あらゆる分野で必要とされる高性能材料を得るためになくてはならない手段になっています。

 従来のラジカル重合は、成長ラジカル同士が結合する「再結合」による停止や、成長ラジカルが反応系中の他の分子から水素などを引き抜いて失活するとともに新たな成長ラジカルが生成する「連鎖移動」等の副反応が起きることから反応の制御が難しく、また、一旦ラジカル活性種が生成すると停止反応や連鎖移動反応が起こるまでは成長反応を続けるため、分子量の精密な制御は困難であるという特徴があります。

 一方、ラジカル種を可逆的に生成させるリビングラジカル重合では、成長ラジカル種を一時的に反応不活性なドーマント種に変換して高分子鎖の成長を休止させることが可能になります。ドーマント種とラジカル種との交換反応が速やかに起こると、反応系内の全ての高分子鎖には同じ割合で成長反応が起こり、分子量の揃った高分子が生成できます。更に、ドーマント種とラジカル種とが平衡にあり、その平衡をドーマント側に偏らせるとラジカル種の濃度を低下させることができるため、副反応も抑制されます。

リビングラジカル重合
リビングラジカル重合

3-1-1. 可逆的連鎖移動で進行するリビングラジカル重合(RAFT重合)

 チオエステルの炭素―硫黄二重結合に重合末端ラジカルが付加し、中間体ラジカルを経て、新たな活性ラジカルと休止種が生成する可逆的連鎖移動を伴って重合が進行します。この機構は可逆的付加‐開裂連鎖移動 (Reversible Addition-Fragmentation chain Transfer: RAFT) 重合と呼ばれます。

可逆的付加 開裂連鎖移動重合の反応機構
可逆的付加-開裂連鎖移動 (RAFT) 重合の反応機構

当社のアゾ開始剤とRAFT剤の組み合わせにより、既存の重合系に添加するだけで精密な重合反応が可能となります。当社では量産化レベルでご提供できるRAFT剤を多数ラインナップしております。また、RAFT剤の受託製造も承っております。

3-1-2. ニトロキシドを用いたリビングラジカル重合(NMP)

 ニトロキシドラジカルを用いたリビングラジカル重合 (Nitroxide-Mediated radical Polymerization: NMP) は、代表的な安定ニトロキシドラジカルである 2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル (TEMPO) を用いたスチレンのラジカル重合が最初に報告されました。この例では過酸化ベンゾイルを開始剤としたスチレンのラジカル重合系に TEMPO を加えた条件での重合により、分子量が数万程度で分子量分布が比較的狭い (Mw/Mn < 1.3) 高分子が得られることが示されました。ニトロキシドの分子設計により、現在ではアクリル酸エステルを中心に幅広いモノマーに適用が可能になっています。 ドーマント種であるアルコキシアミン化合物は安定で単離も可能であるため、リビングラジカル重合の「単分子開始剤」として精密重合の合成研究に幅広く使用されています。

TEMPOを利用するスチレンのリビングラジカル重合
TEMPO を利用するスチレンのリビングラジカル重合 (NMP)

3-1-3. 金属触媒を用いたリビングラジカル重合

 ラジカル重合に一電子酸化還元を示す遷移金属を組み合わせたリビングラジカル重合は、大きく 2 種類に分けられます。その一つは、成長末端がハロゲンなどの解離基でキャップされ、金属錯体の一電子酸化還元 (Mn ↔ Mn+1) を伴いながら、解離基が成長末端ラジカルと金属との間を移動する機構で、原子移動ラジカル重合 (Atom Transfer Radical Polymerization: ATRP) と呼ばれます。もう一つは、金属が解離基として成長末端に直接付加し、金属の一電子酸化還元が成長ラジカル種の生成を起こすもので、有機金属媒介ラジカル重合 (Organometallic-Mediated Radical Polymerization: OMRP) と呼ばれます。 生成した高分子に金属残渣が含まれてしまうことが用途によっては問題となる場合がありますが、最近ではごく少量の金属触媒量でも重合を制御できる系が開発されています。電子材料や生物医学などの用途では、金属を用いない高分子合成法が好まれます。近年では、有機光触媒を用いる金属フリーな原子移動ラジカル重合 (O-ATRP) も報告されています。

原子移動ラジカル重合と有機金属媒介ラジカル重合
(a) 原子移動ラジカル重合 (ATRP) と、(b) 有機金属媒介ラジカル重合 (OMRP)

当社試薬事業では、各種精密ラジカル重合試薬を取り扱っております。

ポリマー受託サービス